いつもの散歩道、
下の子のベビーカーを押して歩く私の前を、
少し離れてご機嫌で歩く娘。
黄色い上着のフードをかぶって、
左手にはキミドリのぞうさんのじょうろ。
ぞうさんの長い鼻の影が、娘の手の影と一緒に揺れている。
冬の午後の、貴重なお日様が照っている田んぼ道。
なんてことない、いつもの田んぼ道なんだけど、
光や影が完璧すぎて、
今のこの瞬間にしか見ることがない娘の後ろ姿に、
ちょっとじーんときて、
「写真撮りたい」
と思ったけれど、カメラも、携帯も持っていなくって。
一瞬、あぁ、持って来ればよかった、と残念に思ったけど、
写真に残せないから、
今しかないこの「画」を、
全身で覚えていよう、と思った。
そうしたら、完璧な瞬間が、完璧なままで、
今この瞬間に私だけしか味わっていないという特別感までついて、
ものすごく大切な瞬間になった。
綺麗な景色を見て思わず写真を撮った時にいつも感じる、
「肉眼にはかなわない」
というちょっぴり残念な気持ちは、
完璧な景色にちょっとだけ水をさしてしまうから。
完璧な今この瞬間を、全身で味わうことの大切さを、思い出した日。
たぶんこの日のこの景色は、
長い時間が経っても、
肌にあたる風とか、
ベビーカーのタイヤの音とか、
お日様の匂いまで全部セットになって
「あの時の景色」として、
私の心にたちのぼってくるだろう。
自信を持ってそう言える景色が、
人生の中で数えるほどしかないとしても、
それは人生の宝物として、
ずーっとずーっと残るんだ。
全身で感じて、心に焼きつけることができたら、
一瞬一瞬が、宝物になるんだ。
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